第2章
「雄太、お待たせ、早く車に乗って」
「はい、お邪魔します」
待ち合わせの場所で
時間より二十分も早く真奈美を待っていると、
真奈美は時間ぴったりに現れ
すぐに雄太を乗せて車を発車した。
「雄太、私に会えなくて寂しかった?」
「はい、本当に毎日電話を待ってました、
それに俺一日も欠かさず
真奈美さんのシャツと下着の匂いを嗅いでたから、
もう完全に真奈美さん中毒です」
「そう、そんなに私の匂いが、
じゃあ今日は……まぁ楽しみにしてなさい」
そんな事を話しながら走っている時、
雄太はチラチラと真奈美を盗み見て思った。
(あれ、今日は真奈美さん化粧してないんだ、
それでもこんなにキレイなんだもんなぁ、
でもこの服装は……)
この日の真奈美はもうすぐ七月だというのに
上下ともスポーツウエアのようなものを着ていて
雄太は暑くないのかと思った。
更に額を見るとうっすらと汗をかいていて
雄太は思わずジッと真奈美の顔を
不思議な気持ちで見ていた。
そんな雄太の視線に気づいた真奈美は
「ん?どうかした?雄太」
と少し妖しく微笑んだ。
「いえっ、
真奈美さん今日は化粧してないんだなって、
でも凄くキレイだから……
でもその格好、暑くないですか?」
雄太が聞くと
「暑いわよ、でもいいの、うふふ」
と意味ありげな顔をした。
しかしそれ以上は何も言わないので
雄太は話題を変えた。
「そういえば真奈美さん、
電話くれた時に番号通知してたから……
登録してもいいですか?」
「うん、いいけど
しつこく電話してきたらもう雄太の事嫌いになって
二度と会わないからね、気をつけなさいよぉ」
「はっ、はい、
絶対真奈美さんに迷惑にならないようにするんで…
…あっ、それとこの前俺の携帯の覗きの動画、
他の人のは全部消されてたのに
真奈美さんのだけ残ってたんですけど、
もしかして……」
「うふふ、全部消しちゃ寂しいかと思ってね、
いらないなら自分で消したら?」
「いえっ、いります、ありがとうございます、
絶対誰にも見せないから、
自分だけの宝物にします」
「ちゃんと他の人に見られないように
しておきなさいよ」
「はい、もうしてあります」
そんな事を話しているとやがて車は
あるマンションの地下駐車場に入っていった。
「はい、到着よ」
「えっ、ここって……」
「今日は特別に私の部屋に招待してあげる。
嬉しい?」
「はい、でもいいんですか?」
「駄目なら連れてこないわよ、早く行くわよ」
真奈美は車から降りてさっさと歩き出した。
雄太も急いで車から降りて
真奈美の後について行き
「真奈美さん、
こんな凄い高そうなマンションに住んでるんだ、
ここいくら位するのかな?」
と独り言を呟くとしっかり真奈美に聞こえていて
「さぁ、パパが買ったから知らない」
とエレベーターに乗り笑いながらそう言った。
「嘘っ…真奈美さんパパがいるんですか……」
「別に普通でしょ……
えっ?雄太何か勘違いしてない?
パパってお父さんよ、お父さん」
「あぁ、なんだお父さんか、
あはは…そうかぁ、そうですよね」
「バカねぇ、
この前しばらくエッチしてないって言ったでしょ、
マンション買ってくれる男なんかいたら
そんなの無理じゃない」
「そうでした、でもお父さんお金持ちなんですね」
「そりゃあヤクザの親分さんだからね」
「えっ……ええっ?」
「嘘でぇす、ただの会社の社長さんよ」
「…………」
「ごめんなさい、
そんなに睨まないの、ほら着いたわよ」
エレベーターを降りて真奈美の部屋に入ると
なんともいえない甘酸っぱい香りがして
雄太はそれだけで少し興奮してしまった。
「おじゃましまぁす」
部屋に上がると
目の前には素晴らしい眺めが広がり、
真奈美は毎日こんな光景を見ながら
生活しているのかと思うと
雄太は何か真奈美の事が自分とは身分が違う人に感じ、
間違って迷い込んでしまったような気分になった。